東京都知事選の予測市場の結果


4月8日に行われた東京都知事選は即日開票され、石原現都知事過半数を得票して再選されました。テレビでは20時の投票締め切りとほぼ同時に当確がでたようで、圧勝とも言える結果のようです。


都知事選に際し、米国の予測市場inklingを使って関連する予測テーマが二つ実施されていました。その結果を整理しておきます。


2007年4月8日に投票日を迎える東京都知事選挙における各候補の得票シェアは?


2007年4月8日に投票日を迎える東京都知事選挙における投票率は50%以上となるか?


では、まずは簡単な方から(笑)。

2007年4月8日に投票日を迎える東京都知事選挙における投票率は50%以上となるか?


これは、設定された事象が起きるか否かの二者択一のタイプです。市場運営者は予測を当てた人にインセンティブを与えます。ここでは「投票率は50%以上である」という仮想証券を売買しているので、投票率が50%を超えた場合(予測が当たった場合)、一株につき$100が払い戻されます。投票率が50%に達しない場合、払い戻しはありません。つまり仮想証券は紙くずになります。この時、仮想証券の価格は理論的には$0〜$100の間の値をとるので、その価格は発生確率と同等とみなすことができます。


さて、東京都知事選挙の投票結果は以下のサイトで確認することができます。


平成19年 東京都知事選挙 投票結果


今回の投票率は54.35%でした。ですので、この仮想証券を所有している人たちには$100/株が支払われ、購入価格との差が利益となります。例えば、$40のときに購入した人は$60の「儲け」となるわけです。


ここで注意が必要なのは、「投票率そのものを予測しているわけではない」ということです。特に今回は数字的に紛らわしい設定なので、もしかすると誤解した人もいたかもしれません(50%を越す確率が五分五分、つまり50%という具合に近かったため)。


仮に予測テーマの設定が「投票率は30%以上となるか」だった場合、都知事選の過去の結果等から恐らくほぼ100%、発生するであろう、という予測がなされると思います。そのときには、この仮想証券の価格は限りなく$100に近づいていくわけです。この場合、$99で購入して$100の払い戻しを受ける、というように、ローリスク・ローリターンの取引になります。

2007年4月8日に投票日を迎える東京都知事選挙における各候補の得票シェアは?

こちらは、各仮想証券の価格をダイレクトに予測するタイプです。日本における予測市場研究の第一人者である山口先生が予測テーマを設定しています。ただ、このやり方の場合、市場運営者(inkling)では最終的にこれをどのように評価するのか、私も実は分かりません。何らかの形で予測結果がより正しい人に、より大きなインセンティブが与えられることになると思うのですが。山口先生から解説していただくのを待ちたいと思います。


ということで、まずは結果だけ整理しておきます。


さて、各候補の得票率は投票率と同様に以下のサイトで確認することができます。


平成19年 東京都知事選挙 開票結果


余談ですが、この開票結果は候補者別に詳細データも見ることができます。具体的にはどの開票区でどれだけ得票数があったのかがわかるのです。開票区は23区別のほか、町田市や国立市三宅村小笠原村といった市区町村別に分かれています。そもそも有権者数がぐっと少ない開票区では、候補者によっては得票数が0だったり1だったりということもあるわけです。


開票結果は以下のようになっています。

候補者名 価格 得票率 差分
石原慎太 $57.50 51.06% 6.44
浅野史郎 $28.90 30.75% -1.85
その他の候補 $14.70 3.86% 10.84
吉田万三 $14.10 11.43% 2.67
黒川紀章 $9.20 2.89% 6.31


都知事選の当選者を予測するのであれば石原慎太郎候補が正解だったわけですが、今回のように各候補の得票率を予測する場合、もっとも正確に結果を予測したのは浅野史郎候補の差分-1.85ということになります。石原候補の場合はずいぶん価格が高いほうにブレており、得票率の予測という意味ではあまり正確だったとは言えません。

気がついたこと


いくつか気がついたことをメモしておきます。

バブルの発生とシンパの存在

今回の試みでは、当初よりずっと各候補の予想得票率(価格)の合計が100を超えていました。これは理論的にはありえない事であり、山口先生も「バブルの発生」を指摘し続けてきました。ただ、そのコメントの中で「価格が上昇するのは特定候補を応援するシンパの存在」について触れています。確かに特定候補の価格(得票率)を挙げようとする「特定の人」がいたのかもしれませんが、予測市場の中でシンパが信条に基づいて行動することは経済原理の点からメリットがありません(風評を流すという意味では別ですが)。とすると、シンパの存在が価格を乱しているのであれば、それは参加者がゲームのルールをきちんと理解していない、ということになります。一回限りの取引ではなかなか理解しがたいかもしれませんが、今後多くの人が継続的に様々な予測テーマに接するようになれば、「結果を予測する」という美人投票的なルールを理解し、ノイズは減っていくのではないかと思います。

投票締め切り後も取引が可能だったこと

今回の選挙は日本時間午後8時に投票が締め切られました。NHKなどマスコミは出口調査の結果などから締め切りと同時に石原候補の当確を出すなど、かなり先行きが見えていた状況だったといえます。一方、予測市場の取引が締め切られる時間は2007年4月 9日午前0時に設定されており(上記の予測テーマ2つとも)、こうしたマスメディアが流す情報を基にした取引が可能になっていました。開票結果が確定したのは9日01時50分ですが、午後8時から午前0時の時間帯の取引をどう扱うかは議論が分かれるところだと思います。個人的には得られる情報の差が大きすぎるため、今回のルールは投票締め切り時間を持って予測市場の取引も終了させるべきだったのではないかと思います。