inklingで数字そのものを予測する際の評価手法


予測市場での仮想証券の設定の仕方の一つに「数字そのものを直接予測する」というものがあります。例えば、明日の日経平均は何円か?とか、明日の最高気温は何度か?といった具合にズバリ結果の数字そのものを予測するものです。日経平均終値が17,000円を越すか、最高気温は20度より上か、といった二者択一型の予測テーマの評価は、事象が発生したか、しないかしか状態変化がないので簡単です。


数字を予測する場合、その結果はどのように評価すべきでしょうか。完全に同一でないとダメ、というやり方もありますし、近ければ近いほど高い評価とする、というやり方もあると思います。ここでは、inklingの評価手法について都知事選の予測市場の例をもとに考えてみます。

方向性と予測誤差の絶対値で評価する

都知事選の予測市場では各候補の得票率を予測していました。ですので、各候補の株価は予想される得票率に連動して動くことになります。


例えば、A候補の仮想証券を買う場合を考えてみます。購入後の株価は大まかに言うと次の3つに分けられます。買値(買ったときの価格)、最終価格(最終的にみんなが予測した結果という意味の価格、つまり市場価格)、実際の価格(実際の投票率をもとに算出した価格)です。


このうち、最終価格は評価に使われません。みんなで予測した結果そのものは捨てられてしまうわけです。不思議な気がしますが、評価という視点でみるとこの価格には何の意味もありません。実際に評価に使われるのは残りの二つの価格です。


inklingの仕組みでは、仮想証券を「買う」という行動は、「株価はもっと高いと予測」していることになります。逆に、「空売り」は「株価はもっと低いと予測」になります。ここで、予測の方向性として買いはプラス(+)、空売りはマイナス(−)とします。この時、予測行動に対する評価、つまりポジションの価値は以下の計算式で表されます。

評価額=(実際の価格−買値)×方向性(+/−)×株数


このようにしてキャッシュアウトされる価値を算出しています。


具体的な例で考えてみましょう。


買値が$50、最終価格が$60、実際の価格が$70で、10株所有していたとします。前述の計算式に代入すると、


(70-50)×(+1)×10=+200


として、$200がポジションの評価額となります。買値よりも実際の価格が上なので、「株価はもっと高いと予測」したことは正しかったことになり、評価額もプラスになっています。一方、買値が$50、最終価格が$40、実際の価格が$40で、10株所有していた場合の計算式は以下のようになります。


(40-50)×(+1)×10=-100


こちらは、実際の価格が買値を下回っているため、「株価はもっと高いと予測」したことは間違っており、評価額がマイナスになるわけです。


では、空売りの場合はどうでしょうか。空売り値が$50、最終価格が$60、実際の価格が$70で、10株所有していた場合、


(70-50)×(-1)×10=-200


買値が$50、最終価格が$40、実際の価格が$40で、10株所有していた場合は、


(40-50)×(-1)×10=+100


となります。それぞれ、空売り、つまり「株価はもっと低いと予測」したことが正しかったか、間違っていたかで、評価額がプラスになったりマイナスになったりします。

評価されるのは正確さか目利きか


予測が正しかった場合は評価額がプラス、間違っていた場合はマイナスになるのは当然として、評価額の大きさについてはどう考えたらよいでしょうか。inklingの制度設計では、買値(空売り値)と実際の価格が離れていればいるほど利益も損失も大きくなるようになっています。つまり、できるだけ早く「市場の歪み」に気がついて、正しい方向性を予測することが高い評価を得ることになります。逆に、大多数の予測がある価格に向かって収束しつつある中では、買値と実際の価格の差は縮まっていきますので、評価額はどんどん小さくなるわけです。これは、inklingの売買方式が指値ではなく、売り/買いとボリュームの指定という組み合わせで行われていることによるものです。


とすると、実際の価格が$40だった場合に$39で買った人の行動(予測)はどう評価されるのでしょうか?実際の価格に近い価格で買うということは、とても正確な予測をしていると考えることもできます。ただ、inklingでは、こうした「正確さ」は評価されません。これは制度設計によるものなので、市場運営者がどのような観点で参加者の行動を評価するかによって変わってくるためです。