参議院選挙の予測市場を終えて


参院選も終わり、安倍政権は今後どうなるのか、に世間の注目が集まっているようです。次々と新しい予測テーマを投入していけると面白いと思うのですが、残念ながら継続的に日本語で利用できる多目的の予測市場はまだ見当たらないようです。


さて、今回の参院選予測市場について簡単にまとめておきたいと思います。


予測精度について

予測市場での終値は与党株が54円(54議席)、野党株が71円(71議席)となりました。合計が121円(121議席)となっていないのは制度設計上の理由によります。実際の選挙結果を見ると与党は47議席、野党は74議席を獲得しています。この結果をどう評価するかはなかなか難しいところです。


野党の圧倒的勝利という点では、議席数の開きも含め、かなり精度の高い予測をしたと言えます。一方、野党有利は公示前から言われており、どちらか勝つかではなくどの程度野党が議席を獲得するか、という点が重視されていたことを考慮すると、野党で約6%、与党で約2%野党で約4%、与党で約15%(すいません、計算ミスをしていました)という誤差をどう評価するかということになります。


今回もテレビ各局は選挙特番を組んでいましたが、20時の番組開始直後からほとんどの局が与党40議席台という開票予測の数字を出していました。これは、選挙当日に投票所で出口調査を行った結果をもとにしていると思われ、結果からするとかなり高い精度で予測することができていました。


残念ながら今回の予測市場ではそこまでの精度は得られなかったわけですが、理由としては参加者数が十分ではなく不慣れであった、ことなどが考えられます。「ゲームのルール」を熟知している人のみが参加するのであれば、参加者数はそれほど多くなくてもいいと言われていますが、実際にはある程度の人数が揃わないと「集団の知」としてはうまく動かないようです。また、選挙そのもののルール、予測市場としてのルールといった制度設計部分を参加者に熟知させることも精度向上につながると考えられます。

制度設計及びシステム面について

今回の予測市場では取引価格が激しく上下するというシーンが散見されました。また、板情報を見ても不自然な発注が並んでいた状態も見受けられました。これらの一部は制度設計上の、また一部はシステム上の不備(バグ)によるものと思われます。


市場運営者による「セット」販売(バンドル販売)は、「はてな総選挙」で見られた課題を解決するために有効な手段ではありましたが、多くの参加者はこれを裁定取引の道具とみて取引を行っていたと思われます。本来、バンドル販売によって株価の変動が制限されるようなことはないのですが、特に中盤戦は価格が一定の幅のなかで小刻みに動く、という状況を引き起こした原因の一つとなったようです。


制度設計の視点で言うと、予測市場終了の期日や終了時の評価の仕方などがなかなか発表されなかったり、詳細なルールが決まっていない、ルールが途中で変更された、といった点のも今後の課題です。取引(予測結果)に大きな影響を及ぼす部分ではありませんが、あらかじめ全て公表した上で市場を運営すべきです。あまり細かなルールを定めると参加の敷居が高くなりますが、やはりある程度は明確にしておくことが必要でしょう。


また、本来あり得ない様な価格や数量での発注による混乱、板の状況からみておかしな価格での約定(バグ?)もありました。「あれ、こんな注文も通っちゃうの?」と気付いた参加者の行動を見て、他の参加者も似たような発注を出すという、まさしく市場メカニズムによる情報の伝達が行われたところは皮肉かもしれません。

最後に

なんか文句ばかり言っているようですが、全体としてはうまくいったのではないかと思っています。実際、やっていて楽しかったですし。日本ではこれまで、本格的な予測市場はほとんどなかったわけですから。ここまで仕上げるのにはいろいろと大変だったのではないでしょうか。


そういう意味では市場運営者の方々へのリクエストですが、今回の予測市場の検証結果をオープンにしていただけると、今後の予測市場全体の発展につながるのではないかと思います。なにしろ、やってみないとわからないことが多い分野ですので。


お疲れ様でした。>中の人


そういう意味では、shuugi.inにも期待しています、ハイ。

お詫びと訂正&参院選予測市場ブログパーツ

7月23日付け日記の「キャッシュアウトの方法は?」の部分に間違いと誤解を招く表現がありました(ご指摘いただいた方、ありがとうございます)。

まず、与党株は70円で最初の取引が始まったとします。ある日、Aさんは70円で与党株を取得しました。その後、株価は下落し、50円になったところでBさんも与党株を取得しました。この時点でAさんは20円/株の評価損が発生しています。しかし、最終的に与党株の終値が70円だったとすると、Aさんはプラスマイナスゼロ、Bさんは20円/株のプラスという評価になります。

Aさんは早い時点で正しい予測をしているのに、後から参加したBさんの方が高い評価を得ているということになります。こうしたケースでどちらの行動をより高く評価するかは難しい問題です。

http://d.hatena.ne.jp/PC-8001/20070723/p1


また、「最終的な獲得議席数によって各銘柄の終値を確定し、強制的に全株式の払い戻しをする」という方法とinklingの「株価変動の方向性と予測誤差の絶対値で評価する」という方法は全く同じ結果になります。inklingの場合は「空売り」という概念を独自の方法で実現しているため、若干ややこしい表記になりました。

参院選予測市場ブログパーツ

さて、これだけでは何なので、恐らく中の人と思われる「malmrashedeの日記」さんのサイトで見つけた情報をご紹介します。参院選挙の議席数を予測する予測市場の状況を表示するブログパーツだそうです。貼り付けるとこんな感じに。


07参院選予測市場


ソースは以下のとおりです。

<p><a href='http://sangi.in/pm/'><img src='http://sangi.in/pm/MiniBrandChartOut' alt="07参院選予測市場">
</a></p> 

裁定取引の終焉とポジション作り


参院選投票日を今週末に控え、ここしばらく停滞していたsangi.inの予測市場の取引も再び活性化してきました。マスメディアが公表する世論動向に沿った形で各銘柄の株価も変化しているようです。


短期の鞘抜き売買と(比較的)長期の予測

この参議院選予測市場では「手持ちの資金を増やした人が勝ち」というルールですが、それには大きく二通りのやり方があります。一つは途中売買によるものです。市場もしくは市場運営者から安く買い、高く売ればその差額が利益になります。予測市場では必ずしも最後の瞬間まで予測している(ポジションを持つ:自分が予測した価格にそって銘柄株を所有する)必要はありません。株価の変動に応じて売買を繰り返してもいいわけです。いわゆる「デイトレーダー」的な行動です。特に今回は結果が出るまでの期間が長い(予測市場のオープンから3週間強)ので、こうした取引が多かったと思われます。

今回の制度設計では市場運営者側との間で「セット」と呼ばれる銘柄ペアを常に定額で売買できたため、市場での取引価格との差をついて利益を得ようとした参加者が多く見られました。ですので、株価は大きく変動することなく、少しでも「市場の歪み」が見つかると、あっという間に裁定取引が行われ、ほとんど株価が動かないという状態がしばらく続いていました。もちろん、この状態でも株価の変動はあって然るべきですが、どの水準が適当か、という判断基準があまりなく、また参加者の不慣れ(初めてなので当たり前ですが)なこともあり、ちょうど両者拮抗する価格帯で落ち着いていたようです。今後、何度かの選挙予測を通じてこうした取引を何度か繰り返していくと、マスメディアのニュースなどの情報によって各銘柄の価格が変動し、それによって売買益を得る、という行動も出てくると思います。


さて、手持ち資金を増やすもう一つの方法は「予測を当てること」です。予測市場なのだから当たり前だと思われがちですが、これは意外と難しいことです。まず今回のような制度設計では必ずしも自分の思った価格(予測した獲得議席数)で株式を購入できるわけではありません。板の仕組みを使ったダブルオークション方式のため、ある価格で売買するためにはそこに至る板上の注文を全てこなす必要があります。

例えば、与党株の現在値が60円の時、自分は50円(50議席)という価格を予測したとします。後述する精算ルールにもよりますが、出来る限り50円に近い価格で与党株を所有していることが「正しい予測」であることになります。そのためには出来る限り50円に近い値段で売買しなければなりません。ですが、市場には現在の価格よりも少しでも安く買いたい人が他にもいます。すると、55円なら買う、57円でも買う、という人たちと勝負しないといけないわけです。とすると、本当は50円で買いたいのに、59円でしか買えなかった、ということがおきます。その次は59円の持ち株を売って、58円もしくはさらに安い値段で買う、という行為を行わなければなりません。逆の場合(60円よりも高いと予測)も同様のステップを踏む必要があります。相場の流れが同じ方向に勢いづいていれば別ですが、これはなかなか大変なことです。

もちろん、「他人の意見を参考にしながら自らの考えを修正して動く」という予測市場の性質上、あまりにもかけ離れた価格(予測値)は「誤り」である可能性が高いわけですから、このあたりの行動は難しいところです。

また、予測していたとおりの価格で購入できてしまった(ポジションを組んだ)場合、その後は自らの予測が変化しない限り、これ以上することがありません。市場参加者がみな同じように、自らの予測した価格で株を購入してしまった場合、流動性が低下してしまう恐れもあります。ダブルオークション方式が持つ課題の一つでもあります。なにより、することが無くなってしまうと予測市場に参加していてもツマラナイですよね。


投票日まで残り一週間を切った今、与党株が値を下げ、野党株が値を上げている状況は、マスメディアが伝える動向に近づきつつあります。これは、短期売買で鞘を抜くよりも、自らが予測するポジションを組んで予測を当てることによって利益を得ることへと市場参加者の行動が変化していると言えるでしょう。

キャッシュアウトの方法は?

取引終了日は「投票日前日の28日23:59(投票日前日)」と発表になりましたが、予測が当たったことによる利益配分(キャッシュアウト)のルールがまだ不明なので、市場運営者側から明確な説明が欲しいところです。一つの考え方として、取引を終了した後、最終的な獲得議席数によって各銘柄の終値を確定し、強制的に全株式の払い戻しをするというやり方があります。この場合、購入額と最終的な終値との差額が利益となります。inklingの場合は株価変動の方向性と予測誤差の絶対値で評価をしています(参考:「inklingで数字そのものを予測する際の評価手法」)。


この方法の場合、購入時の株価が最終的な終値とかけ離れていればいるほど利益が大きくなります。つまり、他の市場参加者が間違った予測をしていた頃から正しい予測が出来ていた人には大きな利潤をもたらすという発想です。早めの予測を促すと言う意味でも好都合です。ただし、「正確な予測」を評価する、という立場にたってみるとどうでしょうか。


例えば次のケースを考えてみます。買値と最終的な終値との値動きの方向性が合っていれば、その差額が利益となるという制度設計の場合です。
まず、与党株は70円で最初の取引が始まったとします。ある日、Aさんは50円で与党株を取得しました。その後、株価は下落上昇し、70円になったところでBさんも与党株を取得しました。この時点でAさんは20円/株の評価益が発生しています。しかし、最終的に与党株の終値が50円だったとすると、Aさんはプラスマイナスゼロ、Bさんは20円/株のプラスという評価になります。

Aさんは早い時点で正しい予測をしているのに、後から参加したBさんの方が高い評価を得ているということになります。こうしたケースでどちらの行動をより高く評価するかは難しい問題です。


sangi.inがキャッシュアウトの手法として、どのようなルールを考えているのか興味深いところです。

不自然(?)な板情報

さて、次の画像はある日の与党株の板情報です。何かおかしいところがあるのか、と聞かれれば、「無い」と言わざるを得ないのですが、個人的にはちょっと不自然すぎるのではないかと思えて仕方がありません。与党株、野党株、それぞれの板がこのように売りも買いも綺麗に数円刻みで並んでいるのです。それもここ数日はほとんど動き無く。



もちろん、様々な考えを持った人が世の中には存在して、その人たちが自らの考えを元にポジションを組んで市場に参加しているのであれば、こうした板の形にならないとも言えません。しかし、選挙の獲得議席数予測のようにある程度、方向性や数字が見えている世界で、あえてこのような行動をとる市場参加者がいる(様々な価格に売りと買いの注文が並んでいる)というのは、なんとも不思議な感じです。


市場参加者個々人の予測行動(売買行動)がどのようなものであったか、様々な視点で詳細に分析した結果が公表されると、今後の予測市場の研究の役に立つと思います。

頑張れ、中の人


いよいよ参議院選挙が公示され、二週間あまりに渡る選挙戦の火蓋が切られました。参議院選挙予測市場の方も株価が乱高下、していたのは選挙の行方の予想がぶれたのではなく、システムや制度設計の不具合修正のためにいろいろと作業が行われていたからと思われます。



中の人、頑張れ!

参院選総合情報サイトがレイアウト一新


参院選予測市場を運営している「Sangi.in」がレイアウトを一新しました。シンプルで見やすく好感が持てるデザインです。画面右側には議席獲得数予測のチャートと最新の約定価格・時間が表示されています。



カッコいいロゴも登場。こういうのって案外大事ですよね。


不具合の修正等


参院選の獲得議席数をテーマとした予測市場も同じくリニューアルされています。約定がうまくいかなかったり、膨大な株数の発注ができてしまったり、といくつかシステム上、制度設計上のトラブルも散見されましたが、徐々に修正も進んでいるようです。こういうところはスピード感が大事ですよね。資産総額の算出ロジックについては未だ不明な部分がありますが、このあたりのドキュメントも段々と整備されていくものと期待しています。


今回修正された(と思われる)主な不具合、制度設計は以下のとおりです。

  • 注文は売買とも100株までに
    • 手持ち資産額に関わらず大量の空売り注文ができてしまっていた問題。これまでは100万株を超える注文も可能になっていたものを修正。
  • 空売り担保金の改定
    • 当初、空売りには株式の代金分+10,000円が担保として必要とされていましたが、「株式の代金分担保金が別途必要」というルールに変更。
  • 発注可能価格(チェックロジック)の修正
    • もともとルールでは発注可能な価格を「1円から121円」と設定していましたが、実際には122円の注文が板情報にも出てしまっていました。これらを不正注文として弾くように修正。


ちなみに、議席数を予測するということは、理論上の株価は0円から121円(獲得議席数が0から121議席)まで変化するはずですが、値段の設定は1円から121円までとなっています。0円で発注できるとなると発生する様々な問題を回避するための制度設計と考えられます(実際に起こりうる確率は非常に低いでしょうし)。

ここまでの取引状況


実際の予測市場の動きについては山口先生のブログなどで随時報告されているようなのでここでは簡単に。7月12日早朝の時点では与党株が62円、野党株が63円と若干理論株価を上回る水準で推移しています。もっとも、予測市場が開設された当初に比べると取引量も少なめで、落ち着いている感じです。市場運営者との間でセットを売買できることによる裁定取引の存在も、価格変動の少なさに影響を与えている一つの要因と思われます。



本日はいよいよ参議院選挙の公示日です。選挙の争点となりそうな話題も豊富(?)で今後の展開がどうなるのか楽しみです。

投票エージェント

さて、佐藤研究室の参議院選挙総合情報サイトでは「投票エージェント」なる仕組みも始まりました。こちらは予測市場とは関係なく、ウェブ上で簡単な質問に答えていくと自分と同じような考えを持つ候補者や政党が誰かという情報を提供してくれるものです。



このような感じの質問が全部で16個用意されています。同じアンケートを立候補予定者にも予め行っており、それらの回答と比較して考え方が似ている候補者や政党を導き出す、というものです。直接話を聞く機会がない、マニフェストを見てもよくわからない、というケースも多く、こうした投票支援の仕組みはとても便利だと感じます。


ちなみに毎日新聞でも「毎日ボートマッチ『えらぼーと』」という、これまた絶妙なネーミングのサービスを提供しています。前述の投票エージェントと全く同じ仕組みのもので、こちらは全21問のアンケートに答えると候補者の回答との「近さ」が数値で分かり、候補者間の考え方の違いも知ることができるというものです。こちらも事前に候補者に対してアンケートを行った結果をもとにしています。



えらぼーと」はFlashを巧みにつかった非常に優れたユーザインターフェースを採用しており、誰もがわかりやすく利用できるようになっています。公示日以降に改めてデータを更新するとのこと。

122円?

ルールとして「4. 値段は一株あたり1円から121円まで設定できます。」(株の買い方)とあるのですが、122円という価格で板情報が出ています。希望価格が122円以上の場合は不正な注文としてシステム的には弾いているようですが、どこかバグってるのでしょうか。